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『ソンブーン』のプーパッポンカリーが国外へ進出しないワケとは

『ソンブーン』のプーパッポンカリーが国外へ進出しないワケとは

「小泉元首相が来店した」というフレーズは、日本人にとって強い印象を与えるエピソードだ。
時の首相が来店したその店とは、バンコクで8店舗を構える『ソンブーンシーフード』(以降表記はソンブーン)である。
独自のプーパッポンカリーを創り出し、世に送り出したのがこのレストランだ。ふんわりと炒められた卵とカニの身。それらをカレーテイストでまとめた一品はソムタムなどの辛いタイ料理とは違い、日本人にも馴染みやすくタイ料理を代表する一つといっていいだろう。
幾つものタイ旅行ガイドブックで取り上げられ、小泉元首相までも足を運ばせた実力はプーパッポンカリーを始めどの料理にも表れており、数多あるバンコクのタイ中華レストランの中でもトップクラスの知名度を誇っている店である。

店舗数は全部で8店舗。店舗数を増やし勢いを増している感すらあるソンブーンに対し、ひとつだけ疑問を持っていた。すでに日本へ進出している『MKレストラン』や『コカレストラン』に勝るとも劣らないネームバリューを持ちながら、なぜ日本へ出店しないのか。いや日本だけではなく、タイ国外には1店舗も進出していない。
展開している8店舗ともすべてバンコク都内である。
この疑問を解決するには、社長直々に話を聞くしかない。コンタクトを取ったところ快くインタビューを引き受けてくれた。

新しいプーパッポンカリーを創り出したソンブーン

2018年12月某日。インタビュー場所として指定されたのは、セントラルワールド6階の『ソンブーンシーフード セントラルワールド店』である。スタッフに案内されるがままに付いていくと、10名が座れるであろう丸テーブルに一人の男が腰をかけていた。
Somboon Srijaroensukying氏、49歳。『ソンブーンシーフード』の二代目となる現オーナーだ。
感情をあまり表に出さない形相は、睨まれたら萎縮してしまいそうな強面だが、ゆっくりと穏やかな口調で話し始めてくれた。

「お店が創業したのは1969年。私の父と母とでお店を始めました」

1号店がオープンした当初、店のメニューにプーパッポンカリーはなく、街のどこにでもあるタイ中華食堂としてスタートした。その後しばらく経ち、父とシェフがさまざまなアレンジを試みた結果、現在のプーパッポンカリーが誕生したという。
ソンブーンがプーパッポンカリーを出す前から、蟹のカレー炒めという料理はぶっかけご飯のおかずとして並んでいたが、卵を入れて仕上げる点がオリジナルだったのだと言う。
つまりソンブーンは、卵を入れふわふわに仕上げた”あのプーパッポンカリー”をオリジナル料理として世に広めたのだ。
ときおり「ソンブーンがプーパッポンカリーという料理を編み出した」という誤った認識を見聞きするが、プーパッポンカリーはソンブーン以前よりあった料理である。

中国の汕頭市から渡ってきた祖父

現オーナーの両親はタイで生まれ育っているが、父方の祖父は中国から家族とともにタイへ渡ってきた華僑である。祖父の出身地は華南の汕頭市。潮州から車で小一時間ほどの海沿いに広がり、潮州料理を食文化として持つ街だ。
『ソンブーンレストラン』も汕頭出身である祖父の血を受け継ぎ、潮州料理を基本としたタイ中華を提供している。
潮州料理が元になっているタイ料理といえばオースワンやホイトート、フカヒレスープ、パックブンファイデーン(空芯菜炒め)といったものをはじめ、クイッティアオも潮州の粿条(グオティアオ)が由来だという説がある。

話が逸れるが私は今年1月、潮州へと渡ってきた。タイ料理に深く関わってきた潮州料理というものを現地で食してみたかったからだ。粿条の店はいたるところにあり、値段も安く、タイでのクイッティアオ屋のように庶民の胃袋に寄り添っていることが分かる。
潮州の粿条は牛肉を煮込んだものや魚のつみれなどをトッピングしたり、米粉を使った細麺や太麺を使うことなど、クイッティアオに共通する点が多い。粿条だけではなく、その他にも由来となっているであろう料理は幾つもあった。詳しい潮州レポートはまた別の機会に執筆したい。

ソンブーンがブレイクスルーしたのはプーパッポンカリーがきっかけだったのは間違いないが、一品だけの力で8店舗を展開できるまでには至らなかったはずだ。タイ人の舌に合うよう潮州料理をタイ中華に昇華させてきたからこそ広く受け入れられ、旅行者にも波及していったのだろう。
ソンブーンの料理へのこだわりは、創業者である彼の母親の行動によく表れている。

「CEOであり責任者は私ですが、両親は完全に引退したわけではありません。重要な決定があるときは両親に意見を求めています。母親なんていまだにこっそり店舗に行って料理を確かめていているぐらいですから。もし料理の出来が悪かったら厨房に行って注意していますよ(笑)」

プーパッポンカリーへのこだわりは特に強い。カニの仕入れ先は一つだけではなく複数にわたり、徹底した品質管理を行っている。幾つもの仕入れ先を持っているのは、仕入れ先に何かしらの問題が生じた際のリスクを回避するためである。

「うちで使っているのはタイランド湾で採れたカニです。アンダマン海で採れたものよりも質がいいんですよ。その理由の一つに、タイランド湾が栄養がたまりやすい形状をしているからだと思っています」

後述するが、このカニへのこだわりが海外出店を阻んでいる大きな理由になっている。

ソンブーンが海外へ出店しない理由とは

小泉元首相が『ソンブーンシーフード』に来店したのは、2003年に開催されたAPEC首脳会議の際。その時にはすでにプーパッポンカリーが知られていたことになるので、日本人にじわじわと人気が出始めたのは1990年代後半ではないだろうか。
現オーナーの話からもその時期ではないかと思われる。

「20年ほど前、とある日本人の方から連絡がありました。彼は『銀座でソンブーンを出さないか』と言ってきたんです」

20年前すでに、東京出店を提案した日本人がいたのだ。その後も東南アジア各国の者たちから出店の話が舞い込んできたという。そこまで引き合いがあるにも関わらずなぜタイ国内に固執しているのか。
今回のインタビューで私がもっとも知りたかったことでもある。

「タイ国外で出店しないのは、うちで使っている材料をいろんな国へ持っていけないことが理由です。例えば日本。生のカニを輸入できないし冷凍もダメでした。日本人の方から出店の提案があったとき、北海道のカニを使って試してみたんですが上手くいきませんでした」

彼いわく、北海道のカニは美味しいがタイのカニとは肉質が異なるため、炒めた時にカニの身とクリームがうまく合わさらず、満足のいく出来にならなかったという。ソンブーン流プーパッポンカリーを作るには、どうしてもタイのカニが必要なのだ。
日本だけではなく、他国への出店を諦めている理由もそこにある。
材料だ。
ソンブーンのネームバリューがあれば他国で出店しても集客はそう難しくはないだろう。だが自分たちが理想としている材料が手に入らない国や地域で、中途半端な料理を提供したくない。
創業者である彼の母は、高齢になってもなお自身の店舗へ現れ料理の味を確認している。そんな強い想いとこだわりこそがソンブーンの魂なのだ。

「現在8店舗を持っているとはいえ、店の営業年数を考えたらそれほど多くはありません。出店ペースは遅いほうでしょう。それは、シェフを育てなければならないからです。シェフを訓練し、経験を積ませるためにはどうしても年数がかかってしまう。しっかりとしたシェフがいなければ出店はしない。これも母が決めたルールなんです」

バンコクはここ数年でショッピングモールが続々とオープンし乱立している。そういったモールから出店依頼は幾つも舞い込んでいることは想像に難くない。
それでも急激に店舗数を増やさず、まずシェフの育成を優先させ、ゆっくりながら満を持した状況で新店舗をスタートさせている。

タイ国内ではまだまだ店舗を増やしていきたい

本記事の下にソンブーン全店の情報を掲載しているが、共通しているのはバンコク中心部がほとんどであり、しかもMRTやBTSの駅から近い店が多い。これは旅行者が行きやすいことを考慮しているのだが、裏に隠された理由を話してくれた。

「ソンブーンの名前を使った偽のお店があるんですが、悪質なタクシーはお客さんをその偽物のお店に連れて行ってしまうんですよ。なので駅から近ければそういったお客さんが少しでも減るとも思っています」

オーナーがいう偽物の店とは店名に「ソンブーン」を冠した、まったく別の店舗のことだ。値段はかなり高く設定されているが、相場が分からない旅行者は支払ってしまう。しかもその店が偽のソンブーンだとは知らずに、だ。
タクシーが旅行者を偽ソンブーンへ案内するのは、客を連れて行けば偽ソンブーンからキックバックが支払われるためである。

「偽ソンブーンはほんとうに高いです。パックブンファイデーン(空芯菜炒め)が800バーツ、プラガポン(魚の種類)が3000バーツもするそうです。相場の4倍以上の値段を付けているといっていいでしょう」

偽ソンブーンが今でも営業できている理由として、被害者は外国人なので裁判の手続きや費用を考えると諦めざるをえないことが一つ。そしてもう一点、オーナーがマフィアであることも偽ソンブーンが営業し続けられる大きな要因だろうと彼は話す。

「こういうお店に騙される人が一人でも減るよう、地道な告知をしていくとともに、1店舗でも多く駅の近くに『ソンブーンシーフード』を出店していきたいです」

偽ソンブーンの正式な店名はここで明かさないが、Googleで「偽ソンブーン」と叩けば山のように記事が出てくるのでそちらを参考にしていただきたい。
これだけ情報が発信されていることと駅近にソンブーンが増えたこともあり、悪質なタクシーによって偽ソンブーンへ連れて行かれる日本人は減っているようだ。

インタビュー開始からおよそ1時間。ソンブーンの話だけではなく、彼が日本好きであり各地へ赴いていることや、日本の食事の中でもラーメンや寿司が好きであることまで語ってくれた。
そしてインタビューの最後、言い残したことがあったかのように彼はこの言葉で締めくくった。

「海外出店は諦めたわけではないんです。材料の壁さえ乗り越えられればすぐにでも海外進出はしたいと思っています」

彼の祖父は汕頭市から海を渡り、見知らぬタイランドという国で根を下ろした。言語や文化の壁にぶつかりながらも日々の糧を得て、家族を持ったのだ。そのフロンティア精神は、Srijaroensukying氏にも脈々と受け継がれているに違いない。だからこそ、彼はインタビューの最後に先の言葉を付け加えたのだと思う。
『ソンブーンシーフード』が、海を越え日本へ来る日を楽しみに待とうじゃないか。

取材・撮影・文/西尾 康晴

ソンブーンシーフード全店データ

ソンブーンシーフード バンタットン店
TEL:02-216-4203
OPEN:16:00 – 23:30

ソンブーンシーフード スリウォン店
TEL:02-233-3104
OPEN:16:00 – 23:30

ソンブーンシーフード ラチャダー店
TEL:02-692-6850
OPEN:16:00 – 23:30

ソンブーンシーフード ウドムスック店
TEL:02-746-6850
OPEN:16:00 – 23:30

ソンブーンシーフード サムヤーン店
TEL:02-160-5100
OPEN:10:30 – 22:00

ソンブーンシーフード セントラルエンバシー店
TEL:02-160-5965
OPEN:11:00 – 22:00

ソンブーンシーフード Siam Square One店
TEL:02-115-1401
OPEN:11:00 – 22:00

ソンブーンシーフード セントラルワールド店
TEL:02-090-6602
OPEN:11:00 – 22:00

1974年生まれ大阪府出身。大阪と東京で雑誌編集者として勤務し、2011年にタイへ移住。バンコクで月刊誌の編集長を経て2017年4月にタイ国内旅行会社TRIPULL(THAILAND)Co.,Ltd.を起業し旅行メディアTRIPULLも運営。
Twitter:nishioyasuharu

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